「私だって走りますよ」と、金メダリストの高橋尚子さんに言う人はいない。
「サッカーなんて簡単だよ」と、日本代表の本田圭佑に言う人はいない。
「将棋の相手ぐらいできますよ」と、羽生善治名人に言う人はいない。
誰でも走れるし、ボールを蹴ることもできる。将棋だってできる。
誰にでもできることだからこそ、日本一、世界一は至難の業だ。
文章も、誰にでも書ける。だから難しい。
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もともと言葉や文章も、人と人とのコミュニケーション手段の一つに過ぎない。その延長線上に、本という形態を備えた表現手段が生まれた。これまた誰でも出来ることには違いはない。
ある文筆家が「小説が書けなくなったら、本屋でもやるかな」と言った。それを聞いた本屋さん、「本屋がダメになったら、小説家にでもなるかな」と答えた。どちらもできそうでできないことは言うまでもない。
文筆を天職とする物書きと、わずか数冊の本を出したい俄か著者の力量の差は、羽生名人と碁会所の囲碁自慢程度の差があって当然だ。やはり、誰でもできることこそ一番難しい。
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